研究成果
水俣病に関する病理標本の永久保存を目指す国立水俣病総合研究センターの取り組み
第64回日本神経病理学会総会学術研究会 ポスター発表 2023.07.06
丸本 倍美(国立水俣病総合研究センター)
植木 信子(株式会社 神経病理Kiasma&Consulting ウェブアーキテクトラボ)
八木 朋子(株式会社 神経病理Kiasma&Consulting メディカルデザインラボ)
藤村 成剛(国立水俣病総合研究センター) 中村 政明(国立水俣病総合研究センター)
菰原 義弘(熊本大学大学院生命科学研究部 総合医薬科学部門 細胞病理学講座)
新井 信隆(株式会社 神経病理Kiasma&Consulting ニューロパソロジーセンター)
Introduction
国立水俣病総合研究センターでは、水俣病に関する貴重な試料を永久保存する目的で1996年にリサーチリソースバンク棟を建設し、同施設において病理標本の収集および保管作業を継続的に実施している。水俣病に関する病理標本および資料を整理・保管することは当センターの責務の一つであり、また、当センターは、単一疾患の病理標本が多数保存されている世界的にも例を見ない施設となっている。
現在、当センターが行っている主な取り組みは、病理標本の永久保管に向けた作業、標本を利用した教材作成および将来の学術利用のための作業である。病理標本を永久保管するため、病理組織標本の修復・洗浄作業を実施した後に、組織標本をバーチャルスライド機器にてデジタル化を行い、組織標本をアナログおよびデジタルの両者で保管している。教材作成としては、デジタル化した組織標本を世界中の研究者および学生が教育資料として利用できるようにするためのウェブサイトの作成を行っている。また、将来の学術利用のため、パラフィンブロックの再包埋・ラベリング作業を実施し、研究に再利用できる試料として整理・保管を行っている。本発表では、これらの取り組みについて紹介する。
【水俣病に関する病理標本】
水俣病は、化学工場から海や河川に排出されたメチル水銀化合物に汚染された魚介類を日常的に摂取した住民の間に発生した中毒性の神経疾患である。熊本県水俣湾周辺を中心とする八代海沿岸で発生し、その後、新潟県阿賀野川流域においても発生が確認された。
水俣湾周辺の水俣病については、昭和31年(1956)5月、初めて患者が報告され、その後、熊本大学医学部が中心となって原因究明、調査研究を行ってきた。
国立水俣病総合研究センターでは、水俣病に関する貴重な試料を永久保存する目的で1996年にリサーチリソースバンク棟を建設し、同施設において病理標本の収集および保管作業を継続的に実施している。
リサーチリソースバンク棟保管室の内部
【施設の概要】
リサーチリソースバンク棟内の保管室は、常時、温湿度管理がされ、厳重な入室管理が行われている。保管室には、熊本大学で解剖された症例(認定例および棄却例)を主として、他大学での剖検例および金属水銀中毒例等の貴重な標本も収集している。
保管されている主な試料は、パラフィンブロック(約25,000個) 、スライドグラス(約100,000枚)、35㎜スライド(約40,000枚)およびこれらに関する資料である。
【病理標本永久保存のための作業】
スライドグラスは、洗浄および修復作業を実施後、デジタル化を実施している。35mmスライドもデジタル化を実施している。パラフィンブロックは個々のナンバリングがされていないため、再包埋作業を実施しナンバリングを実施している。
【病理標本の活用】
保管されている病理組織標本を有効活用するため、アナログでの教材作成を実施するとともに、デジタルデータベースおよびデジタル教材作成を行い、HP(日本語)で公開している。
アナログテキスト 脳のしくみと水俣病 シリーズ1-4
データベースHP
【今後の課題】
「必ず」次世代へ残す仕組み作りが必要
様々な標本を永久保管するには? = 捨てられないために何をなすべきか?
将来の新たな科学技術発展の際に再検討出来る仕組み作り
パラフィンブロックをブレインバンク化する = ブレインバンクとして将来へ残すには?
謝辞
本研究を発表するにあたり、熊本大学・技術部・中川雄伸氏、国立水俣病総合研究センター・基礎研究部・千々岩美和氏に心より感謝申し上げます。