研究成果
水俣病病理標本を用いた教材作成
第65回日本神経病理学会総会学術研究会 ポスター発表 2024.05.18
丸本 倍美(国立水俣病総合研究センター)
植木 信子(株式会社 神経病理Kiasma&Consulting ウェブアーキテクトラボ)
八木朋子(株式会社 神経病理Kiasma&Consulting メディカルデザインラボ)
藤村 成剛(国立水俣病総合研究センター)
中村 政明(国立水俣病総合研究センター)
菰原 義弘(熊本大学大学院生命科学研究部 総合医薬科学部門 細胞病理学講座)
新井 信隆(株式会社 神経病理Kiasma&Consulting ニューロパソロジーセンター)
Introduction
水銀に関する水俣条約が2017年に発効され、水銀の採掘・貿易、製品製造工程での水銀利用が規制されている。しかしながら、地球上における人為起源水銀の最大の排出源である人力小規模零細金採掘(Artisanal and Small Scale Gold Mining, 以下ASGM)では金を精錬する際に、水銀アマルガム法を用いることが多い。よって、精錬の際に発生する水銀の河川等への流出や水銀のメチル化による周辺住民への健康影響が懸念されている。現在、世界70か国以上においてASGMが行われており、その現場では1,000万人以上の労働者が従事しているとされるが、水銀により惹起される病理学的な変化に関する教材は不足している。
国立水俣病総合研究センターでは、水俣病に関する貴重な試料を永久保存する目的で1996年にリサーチリソースバンク棟を建設し、以降、貴重な病理標本の収集および保管作業を継続的に実施している。当センターは、水俣病に関する病理標本および資料を世界で最も多く保管しており、これらの有効活用が必要とされている。本発表では当センターが作成した、水銀により惹起される病変に関する日本語および英語での教材、国内外の医療関係者および研究者が利用できるウェブサイトについて紹介する。
【水俣病とは】
水俣病は、化学工場から海や河川に排出されたメチル水銀化合物に汚染された魚介類を日常的に摂取した住民の間に発生した中毒性の神経疾患である。熊本県水俣湾周辺を中心とする八代海沿岸で発生し、その後、新潟県阿賀野川流域においても発生が確認された。
【国立水俣病総合研究センターの役割】
国立水俣病総合研究センターでは、水俣病に関する貴重な試料を永久保存する目的で1996年にリサーチリソースバンク棟を建設し、同施設において病理標本の収集および保管作業を継続的に実施している。スライドグラスは、洗浄および修復作業を実施後、デジタル化を実施している。35mmスライドもデジタル化を実施している。パラフィンブロックは個々のナンバリングがされていないため、再包埋作業を実施しナンバリングを実施している。
【水銀の循環】
火山活動や化石燃料の使用で地表に出てきた水銀は、その形を変えながら自然界を循環している。このうち、大部分は硫化水銀という安定な化合物である。⼀方、わずかながらメチル水銀に変化したものが水棲生物の食物連鎖を介して私たちの体の中にも入ってくる。
【金採掘に伴って放出される水銀の環境中での循環】
ブラジル、アマゾン川流域では、1970年代終わり頃から川底やジャングルの堆積土中の砂金採掘が盛んに行われ、金の精練に使用されている金属水銀による汚染が深刻化している。タンザニア、インドネシア等の国々でも同様な汚染が起きており世界の関心を集めている。これまでの研究で、放出された水銀が河川系に入り、メチル水銀に変化して、魚類などに蓄積していることが明らかになり、住民へのメチル水銀による健康被害も危惧されている。
【病理標本の活用】
保管されている病理組織標本を有効活用するため、アナログでの教材作成を実施するとともに、デジタルデータベースおよびデジタル教材作成を行い、HP(日本語)で公開している。今年度はHPの英語版を作成し公開するに至っている。
謝辞
本研究を発表するにあたり、熊本大学・技術部・中川雄伸氏、国立水俣病総合研究センター・基礎研究部・千々岩美和氏に心より感謝申し上げます。