研究成果

水俣病を疑う症例のブレインカッティングマニュアル

第66回日本神経病理学会総会学術研究会 ポスター発表 2025.06.07

丸本 倍美(国立水俣病総合研究センター)
植木 信子(株式会社 神経病理Kiasma&Consulting ウェブアーキテクトラボ)
八木 朋子(株式会社 神経病理Kiasma&Consulting メディカルデザインラボ)
藤村 成剛(国立水俣病総合研究センター)
中村 政明(国立水俣病総合研究センター)
菰原 義弘(熊本大学大学院生命科学研究部 総合医薬科学部門 細胞病理学講座)
新井 信隆(株式会社 神経病理Kiasma&Consulting ニューロパソロジーセンター)

Introduction

国立水俣病総合研究センターでは、水俣病に関する貴重な試料を永久保存する目的で1996年にリサーチリソースバンク棟を建設し、以降、貴重な病理標本の収集および保管作業を継続的に実施している。水俣病患者においては、中心後回、横側頭回、後頭葉及び小脳を中心に病変が惹起されることが知られている。しかしながら、1956年に水俣病が公式確認されてからの数年間は、原因がメチル水銀化合物と判断できなかったこと、また、中枢神経系を含む全身諸臓器において、どのような病変が惹起されるのか否かについて不明な点が多かった。よって、その当時の中枢神経系を含む全身諸臓器の切り出しは統一されておらず、診断に苦慮されていたことが伺える。水銀に関する水俣条約が2017年に発効され、水銀の採掘・貿易、製品製造工程での水銀利用が規制されている。しかしながら、地球上における人為起源水銀の最大の排出源である人力小規模金採掘では金を精錬する際に、水銀アマルガム法を用いることが多い。よって、精錬の際に発生する水銀の河川等への流出や水銀のメチル化による周辺住民への健康影響が懸念されているため、水俣病が引き起こされる可能性は否定できない。本発表では当センターが作成した、水俣病を疑う症例に遭遇した際に利用出来る日本語および英語でのブレインカッティングマニュアルについて紹介する。

【水俣病とは】

水俣病は、化学工場から海や河川に排出されたメチル水銀化合物に汚染された魚介類を日常的に摂取した住民の間に発生した中毒性の神経疾患である。熊本県水俣湾周辺を中心とする八代海沿岸で発生し、その後、新潟県阿賀野川流域においても発生が確認された。

【国立水俣病総合研究センターの役割】

国立水俣病総合研究センターでは、水俣病に関する貴重な試料を永久保存する目的で1996年にリサーチリソースバンク棟を建設し、同施設において病理標本の収集および保管作業を継続的に実施している。スライドグラスは、洗浄および修復作業を実施後、デジタル化を実施している。35mmスライドもデジタル化を実施している。パラフィンブロックは個々のナンバリングがされていないため、再包埋作業を実施しナンバリングを実施している。

【水銀の循環】

火山活動や化石燃料の使用で地表に出てきた水銀は、その形を変えながら自然界を循環している。このうち、大部分は硫化水銀という安定な化合物である。⼀方、わずかながらメチル水銀に変化したものが水棲生物の食物連鎖を介して私たちの体の中にも入ってくる。 

水銀の循環

【ブレインカッティングマニュアル】

水俣病を疑う症例に遭遇した際に切り出しておくべき部位について、冠状断・水平断・矢状断それぞれで示した。傷害されやすい中心後回・後頭葉一次視覚野・横側頭回のサンプリングを実施できるように工夫した。

ブレインカッティングマニュアル

謝辞

本研究を発表するにあたり、熊本大学・技術部・中川雄伸氏、国立水俣病総合研究センター・基礎研究部・千々岩美和氏に心より感謝申し上げます。この研究成果は、環境研究総合推進費(JPMEERF20255M06)により実施したものです。