小脳は体の外から体に入ってくる毒にとても弱いデリケートな脳です。
かつて化学工場から海や河川に大量に排出されたメチル水銀が魚や貝などに蓄積しました。高濃度のメチル水銀を含む魚介類を日常的にたくさん食べたことにより、メチル水銀中毒が発生しました。これが水俣病です。
メチル水銀は大脳や小脳に蓄積されますが、大脳や小脳のどの部分に強く障害が起きるのかを明らかにすることは、水俣病の病態をさらに解明するためにも重要です。
小脳を養う血管に異常が起きると小脳障害が起きます。
血管が破れてしまう脳出血や、血管が詰まる脳梗塞がその代表です。
また、肺炎などの呼吸障害で酸素が欠乏したときには、小脳の神経細胞は死にやすいことが知られています。
小脳を養う血管に異常が起きると小脳障害が起きます。
血管が破れてしまう脳出血や、血管が詰まる脳梗塞がその代表です。
また、肺炎などの呼吸障害で酸素が欠乏したときには、小脳の神経細胞は死にやすいことが知られています。
人間が生まれてきたばかりのときには小脳はまだ完成していません。
大きさも大人に比べれば半分くらいで、小脳の役割を十分に果たすことができません。
生まれてから育つにつれて、立って歩いて走るようになったり、自転車に乗れるようにもなりますが、このような運動や行動の成長は、生まれてから大人になる間に小脳が発達したからなのです。
人間の脳は胎内で少しずつ成長していきますが、赤ちゃんとして生まれたばかりの時には未完成です。
特に小脳は未熟な状態で生まれてきて、大きさも大人に比べてかなり小さく、神経細胞の配列も未完成です。
その後、数年かけて小脳は徐々に発達して大人の小脳になっていきます。
赤ちゃんは生まれた時には思うように動くこともできませんが、成長するにつれ、立って走って、自転車に乗ったりボール遊びができるようになるなど、徐々に大人と同じような運動ができるようになっていきます。
このような運動の発達は、小脳の発達と密接に関係しています。
メチル水銀中毒 胎児性水俣病の話
赤ちゃんがお母さんのお腹にいるときに、お母さんが食べた魚にたくさんのメチル水銀が含まれていたことにより、お母さんのへその緒からメチル 水銀が赤ちゃんの体内に入り、赤ちゃんが水俣病になって生まれて来ることがありました。
これを胎児性水俣病といいます。
小脳は手足や体の動きのバランスを調節しています。たとえば、机の上に置いてある物を取るために手を伸ばすとき、眼で見た情報を小脳が大脳に伝えて、正しく、最短距離で、揺れることがなく物に手が届くようにしています。
また、小脳は、歩いたり走ったりするときに、両足を交互に規則正しく動かしたり、腕を振ったりという動作を、スムーズに行えるようにバランスを調整しています。
このような小脳の働きのおかげで、大脳の神経細胞の指令が脊髄を通って正しく手足や体を動かすことができるのです。
人間は手を上手に使うことによって細かな作業や動作をすることができます。
また、足の裏で振動などを感じて体の中心の筋肉や手足の筋肉を使って姿勢を保っています。
さらには目や耳から入った視覚や聴覚の情報を処理して体全体の動きを補正したりしています。
小脳はこれらを調整する重要な役割を果たしています。
小脳に障害が起こると全身の筋肉の動きのバランスが悪くなり、手足の動きが悪くなったり、体が揺れたりして姿勢を保つことができなくなります。また、足が必要以上に広がったり震えたりするために、うまく歩けなくなります。さらに、普通に話そうとしても、急に大きな声になってしまったり、 急いだように話してしまうなど、発語の障害も出てきます。
小脳の調子が悪いかどうかを自分で調べる方法があります。
腕を伸ばして人差し指で自分の鼻の頭を触る動作を「指鼻試験」、両手を左右に広げて、左右の人差し指の指先を目の前でつける動作を「指指試験」といいます。
小脳の調子が悪いと、手が震えたりして、鼻ではないところに指が間違って行ってしまったり、うまく左右の指がつかなかったりなどの症状が出てきます。
指鼻試験
指指試験
人間が体を動かしたり考えたりするのは神経細胞が働いているからです。
その神経細胞は脳(大脳、小脳、脳幹)と脊髄にたくさん詰まっています。大脳は考えたり、見たり、運動を始めたり、覚えたりする役割を果たしています。小脳は運動がうまくいくように調整しています。脳幹は呼吸や循環など人間が生きていくために大切な働きをしています。
脊髄は運動の指令を手足に伝え、また、手足の感覚を大脳に伝える情報の通り道です。
大脳は頭より少し小さいくらいの大きさです。
生まれたばかりの赤ちゃんでは、大脳と小脳、脳幹を合わせて400グラムくらい、大人では1300グラムくらいです。
小脳はその人の握り拳くらいの大きさで、赤ちゃんでは50グラムくらい、大人では130グラムくらいです。
脳幹は親指と同じくらいの太さと長さがあります。
脊髄は小指くらいの太さで、長さは首からお尻くらいまでです。
大人の大脳は小さなスイカくらいの大きさで、小脳は卵2個分くらいの大きさです。
このように小脳は大脳に比べれば小さな形をしていますが、神経細胞の数は大脳にある神経細胞の数よりとても多いのです。 小脳にも大脳にも脳回と言われるシワがありますが、小脳は大脳よりはるかに多いシワがあるのが特徴です。 脳のシワが多いということは、神経細胞も多いということです。 形が小さいにもかかわらず、小脳の役割はとても大きいということを表しています。
大脳と小脳の脳回の形を観察してみよう
大脳に比べ、小脳の脳回が複雑に入り組んでいるのが分かります。
これは、小脳にはたくさんの神経細胞があるということを表しています。
zoomifyで拡大して観察してみよう
zoomifyとは:拡大・縮小閲覧可能にするための仕組みです。
小脳にはバランス調整役のプルキンエ細胞があります。
小脳は大脳に比べて小さいにもかかわらず、大脳の倍以上の数の神経細胞があります。
小脳の神経細胞の代表はプルキンエ細胞という名前の神経細胞です。プルキンエ細胞には多数の樹状突起があり、大脳や脊髄からのたくさんの情報を受け取っています。
受け取った情報は、プルキンエ細胞の中で適切に調整され、運動が正しく行われるようになります。
人間には約1500億個の神経細胞(ニューロン)があります。
神経細胞からは神経線維(1本の軸索と数本の樹状突起)が出ています。
軸索は情報を発信する線維で、樹状突起は情報を受け取る線維です。ほとんどの神経細胞は脳や脊髄にあり、それらをまとめて中枢神経といいます。
脳や脊髄から出てゆく神経線維(軸索)は末梢神経といいます。中枢神経は人間の働きの司令塔の役割であり、末梢神経は中枢神経からの指令を手足などに伝えたり、手足の皮膚などからの感覚を中枢神経に伝える伝導路の役割を果たしています。
人の体の中は神経が張り巡らされています。
そのおかげで、私たちは体を動かしたり、外からの刺激を感覚として感じたりできるのです。
中枢神経
たくさんの神経細胞が集まって大きなまとまりになっている場所で、考えたり、物を見たり、音を聞いたり、匂いや痛みなどを感じたり、さらには体を動かす指令を出しています。また、体のすみずみからの情報を受け取ったりもしています。
中枢神経系は、脳と脊髄から構成されています。
脳は、大脳、小脳、脳幹という3つの異なる名前と形の神経系の総称です。脳(大脳、小脳、脳幹)と脊髄はつながっています。
末梢神経
体のすみずみまで張り巡らされている神経です。
そのうち、中枢神経の指令を伝える線維は遠心性線維といい、指令を筋肉などに伝達する役割を持った神経線維です。中枢神経に情報を知らせる線維を求心性線維といい、体が感じる手足の位置関係や皮膚で感じる感覚を脳に伝える役割を持った神経線維です。
末梢神経には、脳神経と脊髄神経があります。
脳神経は大脳や脳幹から出てくる末梢神経で、口を動かしたり、目を動かしたり、匂いを感じたりする役割を持っています。
脊髄神経は脊髄から出ている末梢神経で、腕や足など体幹の筋肉を動かす働きがあります。脳神経は左右に12対(24本)、脊髄神経は頸から腰のあたりまで左右に31対(62本)で構成されています。
神経細胞(ニューロン)
神経細胞には1本の軸索、数本の樹状突起という神経線維(神経突起ともいいます)があります。軸索は神経細胞からの情報を他の神経細胞に伝える役割を担当しています。
神経細胞の軸索や樹状突起の周りには、髄鞘(ミエリン)という膜が取り巻いています。
髄鞘と髄鞘の間にはランビエ絞輪という隙間が空いていて、この隙間があるおかげで情報の伝達が速くなっています。
このような速い情報伝達を跳躍伝導といいます。
神経細胞の情報を他の神経細胞に伝えることで、情報伝達をしています。
情報を伝える軸索の末端部(神経終末)からは、さまざまな種類の神経伝達物質が放出され、他の神経細胞の樹状突起が受け取ることにより、次々と情報が伝わっていきます。
このような情報のもとになる神経伝達物質の受け渡しをする隙間をシナプスといいます。情報が最後に筋肉に伝わる場所は、神経筋接合部と呼ばれます。
神経伝達物質は、運動、感情、睡眠、記憶などの役割により、例えば、ドパミン、セロトニン、アセチルコリンなど多くの物質があり、神経細胞はどれか一つの物質を持っていて、情報を同じ種類の神経細胞に伝えていきます。
テーブルの上の水を飲むために大脳が指令を出す(運動神経系)
筋肉が収縮したり伸展したりすることにより、関節が曲がったり広がったりします。
運動とは筋肉の働きによる体の動きのことです。一つの動作は、一つの筋肉ではなく、たくさんの筋肉が動いて完成します。
上の絵では、コップを握る筋肉の動き(黄色い道)と腕を曲げてコップを口に近づける筋肉の動き(青い道)を示しています。
はさまれて痛い、虫に刺されてかゆいという感覚を大脳に伝える(感覚神経系)
感覚には、温痛覚(温度、痛み、かゆみを感じる)、視覚(ものを見る)、聴覚(音を聴く)、嗅覚(匂いを感じる)、味覚(味を感じる)、触圧覚(触っているものや押されていることを感じる)、振動覚(細かいふるえを感じる)があります。
感覚を最初に受け取るのは、視覚は目、聴覚は耳、嗅覚は鼻ですが、その他の感覚は皮膚が最初に受け取ります。