大脳皮質の区分と役割
脳は場所によって処理する情報が違います。大脳は運動・知覚・精神活動の中枢です。
大脳は脳の中で最も幅広い機能を担っている部分です。人間は大脳が発達しているのが特徴で、脳全体の80%ほどの重さを占めています。
どの部分がどう働くかは決まっており、それぞれが大切な役割をしています。
大脳の構造のうち最も表側を大脳皮質と呼びます。大脳皮質は、前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉の4つの部位に分けられています。
4つの部位それぞれに異なる働きがあり、運動・体性感覚・言語・視覚・聴覚・嗅覚・味覚などの機能が特定の部分に分布しています。
中毒(水銀中毒 一酸化炭素中毒など)
高濃度のメチル水銀を含む魚介類を日常的にたくさん食べたことにより、メチル水銀中毒が発生しました。これが水俣病です。
メチル水銀は体内に取り込まれて脳にも蓄積することが分かっています。
後頭葉は目からの情報を認識するために重要な役割を担っています。
後頭葉にメチル水銀が蓄積することで、見える範囲(視野)が狭くなってしまう視野狭窄などの視覚障害が生じます。
その他の中毒疾患としては、一酸化炭素を過剰に吸い込むことにより引き起こされる一酸化炭素中毒があります。一酸化炭素中毒は、脳深部が破壊される他、頭頂葉や後頭葉に障害が起きます。
血管障害(脳梗塞や脳出血)
大脳には、内頸動脈から枝分かれする前大脳動脈と中大脳動脈、および、椎骨動脈から枝分かれする後大脳動脈がありますが、後頭葉はこれらのうち主に後大脳動脈で養われています。
後大脳動脈が動脈硬化や血栓(血の塊)で詰まると後頭葉の脳梗塞を引き起こします。また、アミロイドという物質が血管壁に沈着することで血管がもろくなり出血することもあります。
このような血管の障害の結果、後頭葉が壊れてしまうと視覚に異常が起こります。
外傷
頭を強打すると脳が揺れて、頭蓋骨に押しつけられて脳が壊れます。
これを脳挫傷と言います。例えば仰向けに倒れて床に後頭部を強く打ち付けた場合、後頭葉に脳挫傷が生じることがあります。また、顔(特に額)を強く打ち付けてしまった時、前頭葉に脳挫傷が起きると同時に、後頭葉側にも脳挫傷が形成されることがあります。
このような後頭葉の外傷後遺症でも視覚障害を引き起こすことがあります。
てんかん
原因が不明なことが多いのですが、後頭葉の神経細胞が過剰に興奮するために、てんかん発作を起こすことがあり、後頭葉てんかん と言われます。後頭葉の神経細胞の働きが正常でないため、見たものが普通よりチカチカ光って見えたり、逆に、はっきり見えずにぼやけてしまったり、見える範囲(視野)が狭くなってしまう視野狭窄などの視覚障害が生じます。
後頭葉てんかんの原因は、中毒、血管障害や外傷の後遺症であることが多いのですが、脳形成(発達)の異常も原因になることがあります。
後頭葉は目で見た物を感じる働きをしています。目から入ってきた光の刺激は大脳の中を通り、一次視覚野という中継基地に到着します。そこには目で見たものを感じる神経細胞がたくさんあり、形・色・動く速さなどを認識します。例えば横断歩道で歩行者用信号機を見たときに、四角いランプが赤や青で、点灯や点滅していることは認識できます。しかし「青だから横断歩道を渡ってもよい」、「赤だからストップ」、ということまでは判断できません。それらを判断する役割を持った神経細胞にバトンタッチをする必要があります。
情報のバトンを最初に受ける神経細胞は一次視覚野のすぐ隣にある視覚連合野です。
後頭葉は一次視覚野と視覚連合野から構成されていて、視覚情報の入口ともいわれる大切な場所です。ただし、視覚情報を処理するのは後頭葉だけでなく、後頭葉から出ていく情報を受け取る領域もあります。
後頭葉が壊れると、視覚に関する様々な障害が起こります。
一次視覚野が壊れると、目から入ってきた光の刺激を感じることができなくなるので、たとえ目が健康で後頭葉までの通り道が正常であったとしても、物が見えなくなります。完全に見えない状態を皮質盲、見える範囲が狭くなった状態を視野狭窄といいます。また、一次視覚野の隣にある視覚連合野が壊れると、物や文字が見えても、それが何であるのかを理解することができなくなります。このような状態を視覚失認と言います。水俣病では、後頭葉に傷害が起こりやすいため、視野狭窄や視野失認が生じることがあります。
視野狭窄(周辺視野の喪失)
視野の周辺から中心に向かって、視野が狭くなってくる状態です。
視覚失認について
高次脳機能障害とは
考える、記憶する、判断する、また、見たもの、聞こえたものの意味が分かったり、書いてあることを正しく理解するなど、運動以外の大脳機能を総称して高次脳機能と言います。
大脳が損傷して起こる機能障害(高次脳機能障害)には、言葉の意味がわからない(失語)、正しい行動ができない(失行)、見たものが何かわからない(視覚失認)、顔を見ても誰かわからない(相貌失認)、耳で聞いた言葉の意味がわからない(聴覚失認)など、様々な症状があります。
目で見たものを物体や文字などとして感じるのは後頭葉の働きですが、その前に、目から後頭葉に光の情報が伝わって初めて後頭葉が役割を果たします。最初に光の情報(例えば下の図ではバナナとリンゴ)が視覚情報として左右の眼球に入ります。その時、視野の左側(バナナ)は左右の眼球の右側にある網膜に投影され、右側(リンゴ)は左右の眼球の左側にある網膜に投影されます。
その後、視神経を伝わって外側膝状体へと伝達されます。この時、両眼の視神経の内側半分は途中で交叉(視神経交叉)して、視野の左側の視覚情報は右大脳の通り道(緑線)に入り右後頭葉の一次視覚野に到達し、視野の右側の視覚情報は左大脳の通り道(赤線)に入り左後頭葉の一次視覚野に到達します。そして、左右の後頭葉で受け取った両方の視覚情報を一つの映像として認識します。
後頭葉には一次視覚野の他に視覚連合野があり、形や色などを認識します。
さらに頭頂連合野や感覚性言語野(ウェルニッケ野)に伝えられて初めて、見た物や文字の意味を理解することができます。
耳で聞いた音や声を感じる場所は一次聴覚野であり、それらの意味を理解するのも感覚性言語野(ウェルニッケ野)です。また、運動に関係する場所も別にあり、何かを話すために脳の中で言葉を並べる場所は運動言語野(ブローカ野)で、その言葉を話すために口や喉を動かす指令を出す場所は運動野です。大脳の中では下図の矢印のように情報が行き来しています。
マクロとミクロの表すこと
物体そのものを目で見たままにとらえることを肉眼観察(マクロスコピー、略してマクロ)と言います。
もっと詳しく見るために顕微鏡を使って細かな様子みることを顕微鏡観察(ミクロスコピー、略してミクロ)と言います。
「大脳のマクロ地図」とは、大脳の脳回や脳溝で区分された地図のことで、「大脳のミクロ地図」とは、大脳を顕微鏡で見た細胞の大きさや数の違いによる区分けの地図のことです。
大脳は左右の半球という塊二つが合わさってできています。大脳にはたくさんの脳回(しわ)があり、脳回と脳回の間には脳溝という溝(境目)があります。脳溝は大脳の区分の目印となっています。
大脳の真ん中あたりには中心溝(ローランド溝)があり、それより前を前頭葉、後ろを頭頂葉といいます。前頭葉のうち中心溝に接した一番後ろにある脳回は中心前回であり、体を動かす役割を果たしています。また後頭葉のうち中心溝に接した一番前の脳回である中心後回は、触感や痛みや温度を感じる役割を果たしています。
大脳を斜めに分割している溝は外側溝(シルビウス溝)で、その下を側頭葉と言います。
後頭葉は、側頭葉の後ろ側、頭頂葉の後ろ側にある大脳部分です。大脳はこのように脳回や脳溝という目印で区分されています。
大脳を内側から眺めると大脳の深い部分にある辺縁葉を見ることができます。 頭頂葉と後頭葉の間には頭頂後頭溝という境目があります。 後頭葉は大脳の一番後ろにある三角形のような塊であり、水俣病で傷害が起きやすいところです。 後頭葉の内側には鳥距溝という境目が横たわっていて、この溝の周りの脳回が一次視覚野であり、目で見た情報が到達する場所です。
大脳の脳回は、山の景色にたとえると山脈です。
また、脳回と脳回の境目の溝である脳溝は谷をあらわしています。
大脳ではそれらの山脈(脳回)と谷(脳溝)に、それぞれ名前がついています。
ブロードマンの脳地図
大脳には、たくさんの神経細胞があります。神経細胞には大きいものから小さいものまで、さまざまな大きさがあり、顕微鏡で見ると大脳の場所によって、大きい神経細胞と小さい神経細胞の並び方が微妙に違っています。
その並び方が同じような場所に同じ色をつけてみると、大脳はいくつかの同じ色の塊が集まってできていることが分かりました。それらに細かく番号(地図の番地)を付けたのが、ドイツの解剖学者のブロードマン先生です(1868-1918年)。ブロードマン先生は、大脳を11個の部分に分け、さらに52の番地を付けました。
こうしてできた図をブロードマン脳地図と言います。
ブロードマン脳地図における後頭葉の番地
ブロードマン脳地図では、後頭葉に17番、18番、19番という番地がついています。
一次視覚野は17番、視覚連合野は18番、19番という番地に一致しています。
水俣病では特に17番に傷害が起こりやすく視野狭窄を生じますが、病変が重度になると18番や19番の傷害により視覚失認が生じます。
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zoomifyとは:拡大・縮小閲覧可能にするための仕組みです。